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広島高等裁判所 昭和40年(ネ)33号 判決 1966年12月09日

控訴人(被告) 日光汽船株式会社

被控訴人(当事者参加人)(原告) 株式会社山本商店

右訴訟代理人弁護士 石角一夫

脱退原告(原告) 富士産業株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

<省略>。

一、被控訴代理人の主張

1、控訴人は訴外松浦船渠株式会社にあてて、金額各一〇〇万円満期は昭和三六年一一月二〇日と同年一二月五日の約束手形二通(両手形とも振出日は同年七月二三日、支払地は呉市仁方町、支払場所は伊予銀行仁方支店、振出地は安芸郡蒲刈島村である。)を振出した。

2、訴外会社から同年七月二三日その裏書を受けた脱退原告は、右手形二通を各満期に支払場所で呈示して支払を求めた。

3、被控訴人は昭和三七年七月三〇日脱退原告から右手形二通の裏書譲渡を受け、現にその所持人である。

4、仮に訴外小田井義夫が控訴人の作成交付した不完全な約束手形に権限なく手形要件を記入したとしても、控訴会社代表取締役御田常吉は本件手形作成前の昭和三六年七月頃、脱退原告の事務所に小田井を伴って訪れ、同人に対し控訴人名義の約束手形を振出す権限を付与する旨表示したので、民法第一〇九条により控訴人は本件手形振出人としての責を負わねばならない<省略>

二、控訴会社の主張

1、被控訴人主張事実中、その主張の裏書により被控訴人が本件手形の所持人となっていることは認めるが、他は否認する。

2、本件手形は控訴人が振出したものではなく、偽造手形である。即ち控訴人は昭和三六年七月頃訴外松浦般渠株式会社に対し手形用紙振出人欄に控訴会社代表者の印章を押捺しただけのものを、白地補充欄は付与せず、予め控訴人の承諾を得た上でのみ手形要件を記入することができるものと約して交付した。ところが、右訴外会社の使用人小田井義夫が控訴会社に無断で、被控訴人主張のように手形要件を記入したものである。

3、仮に本件手形が偽造手形でないとしても、本件手形は訴外会社がその負担する債務につき支払の猶予を受ける際に見せ手形として使用するということで貸与したもので、控訴人はこれにつき一切責任を負わず、訴外会社は他に譲渡しない約定をしている。そしてこの間の事情を脱退原告は知っており、被控訴人は所謂期限後裏書による手形取得者であるから、控訴人は被控訴人にこれを以て対抗し得るものであり、本訴請求は失当である。

三、証拠関係<省略>。

理由

一、控訴会社代表取締役御田常吉が、訴外松浦船渠株式会社の依頼により、昭和三六年七月頃同会社のために手形用紙二枚の振出人欄に、控訴会社代表者の印章を押捺の上交付したことは、控訴人の認めるところである。

二、そうすると、控訴人は右白地手形の交付に際し、訴外会社に他の手形要件を補充する権限を付与したものと推定するのが相当である。

三、しかるに控訴人は訴外会社に対し右補充権を付与したものではないと主張し、成立に争ない乙第二号証の一、二及び控訴会社代表者御田常告の供述(原審)は、右主張に符合しているが、少くとも本件手形二通については後記五のような控訴人と訴外会社との関係を参酌するとき右証拠は信用しがたく、他に右推定を覆えすに足る証拠はない。

四、そして前掲乙第二号証の一により、その頃訴外会社でその使用人小田井義雄が右手形用紙の二枚に被控訴人主張のとおりの手形要件を記載したものが本件約束手形(丙第二、三号証の各一)であることが認められるので、これにより手形は完成したこととなる。

五、脱退原告が昭和三六年七月二三日訴外会社から本件手形の裏書譲渡を受けたことは当事者間に争がないところ、控訴人は訴外会社との間で、本件手形は訴外会社の債権者に対する見せ手形として使用する等の約定があったと主張するが、この点に関する前記乙第二号証の一、二及び御田常吉の供述部分は措信できない。却って、原審証人亀岡半蔵の証言、同証言によって真正に成立したと認められる丙第四、五号証に原審証人森川仙三の証言を総合すると、脱退原告は昭和三六年二月頃訴外会社から控訴人所有の船舶修理のための鋼材の注文を受けたが、訴外会社の資力に不安があったのでこれに応じなかったところ、訴外会社から代金支払については控訴人振出の約束手形を差入れる旨の申出があった上、控訴会社代表取締役御田常吉からもその趣旨の口添があったので、訴外会社に鋼材を売渡すにいたったもので、訴外会社はその代金支払のために前記の通り本件手形を完成した上脱退原告に裏書譲渡したことが認められる。(右認定に反する前掲原審での御田常吉の供述は信用しがたい。)

六、弁論の全趣旨から真正に成立したと認める丙第二、三号証の各一の符箋部分により脱退原告が本件手形を満期に支払場所で呈示して支払を求めたことが認められ、被控訴人がその後本件手形を脱退原告から裏書譲渡を受けて所持人となっていることは当事者間に争がない。

七、以上の次第では、被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は正当に帰するので主文のとおり判決する。

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